NARAFOODSHEDと五ふしの草の共同制作で特別連載。
食べることを深く知り、考え、作り手や届け手、食べ手の思いを聞くことをテーマに、
街のファーマーズマーケットやファームスタンドがガイド的に寄稿、連載するルポルタージュ「マーケットの向こう側」。
マーケットや、地域の農家さん、関係する八百屋さん、繋がるいろんな作り手、食べ手の方々の裏側というか、奥行きに触れていただけたらと思います。
今回は奈良市田原地区の柱。田原ナチュラルファーム、福井佐和さんです。
/ 聞き手: 三宅翔子 / 写真:中部里保 /編集: 榊原一憲
人もお茶も野菜も虫も、みんな「結“ゆい”」でつながる。
春日山の東側、緑広がる田原の里に自然農法を実践している大和茶畑、「田原ナチュラル・ファーム」がある。
奈良市中心部から車でわずか20分ほど…こんなにのどかで自然の溢れた場所があるとは知らなかった。
一面緑の綺麗な茶畑、清々しい夏の青空、つい呼吸も深まり、見惚れてしまっていた。
そんな中、太陽のような明るい笑顔が素敵な、代表の福井佐和さんが迎えてくれ、早速茶畑に案内してくださった。
茶畑までの道中、竹林を抜けていく。
しっとりと潤いも感じる澄んだ道、まさにジブリの世界のようだった。
きっかけは野良旅
ー 農業を始めたきっかけはあるんですか?
佐和 若い頃は、もともと百貨店で働いてたんです。
特に不自由のない生活をしていたんやけどね…その頃偶然本屋さんで「あなたが選ぶ生き方」という本を見つけて、ピンときてすぐ買って帰りました。
そこに鹿児島のえらぶ島(沖永良部島)の百合の刈り取りのお手伝い募集の記事があって、すぐに行きたい!と思って。
親は最初びっくりしてたけど、たまたま同じ奈良から同年代の女の子が行くことになっていて、親もそれならいいよと送り出してくれて。
そこで5日間ぐらいファームステイしたんやけど、すごい楽しかってね。笑
それをきっかけに、全国色々な場所へ農業体験に行ったかなぁ。ジャガイモ掘りにも行ったりね。野良旅やね!笑
奈良の歌姫農園にも通ってて。
最初はオーガニックレストランでバイトしながらの家庭菜園からの始まりやったけど、2002年から農業を始めて、2004年から茶農家になったかな。
意外とバイトをしていた頃のほうが、体力面も含めて大変やって。
時間を農業に100%使われへんかったからね。
ー 何故いろんな農作物がある中で、お茶に辿り着いたのですか?
一年に一回新茶の刈り取りの時期に、手伝ってと言われたのがきっかけかな。
もともと野菜を育ててたんですけど、お茶もいいなぁと思って。
ー そうなんですね。では、何故田原で始められたんですか?
佐和 この田原の土地を選んだのは、歌姫農園の阿藤先生に勧めてもらったのがきっかけです。
当時は新大宮に住んでたから、田原やと近いし、お茶やりたいんやったら、君は奈良の子やから大和茶の産地が良いんちゃう?って言ってくれて。
月ヶ瀬とかやとちょっと遠いし、田原ちょうど良いんちゃう?って。
それで阿藤先生と二人で田原に見に来た時に、偶然ファブリルっていうギャラリーを見つけて、オーナーのいずみさんに出会って、事情を説明したら土地を紹介してくれはって。
そこから色々繋がっていったって感じかな。
ー 上から見下ろす茶畑もまた迫力があった。佐和さんは、ご主人の福井豊さんとともにお茶の栽培に取り組んでいる。
佐和 ここから半分が私の畑で、ここから半分が主人の畑です。
もともとお互いこの地域のお茶農家をしていて、畑も隣同士で、それで出逢って結婚したんやけどね。
当時は主人は慣行栽培をしていて、私は自然農法で。
主人は、一部分を農薬や化学肥料を使わない栽培方法に変えてくれました。
品種はやぶきたやね。
ー ご主人の畑と比べて、佐和さんの畑はとてもワイルドだ。
佐和 これも手を入れなあかんのやけど、そこまで手がまわってなくて、今はこんな感じで。笑
一般的に、お茶は一年で四回刈り取りをします。新茶、番茶、二番茶、秋番茶と。
でも、私は刈り取りは二回だけで。
あとは、見ての通り、田原の茶畑は急勾配が多くて。
静岡とかやと平坦やねんけどね。
刈り取る時にここを乗用の刈り取り機で降りていくんやけど、結構危険で…怪我したり、亡くなる方もいるみたいで。
この前も知り合いの農家さんが、何かに引っ掛かって、ごろんごろんってなったみたい。
ー ここを刈り取り機で下りるんですか!?と驚くような急勾配だった。危険も伴う茶農家さんの仕事。ワイルドな茶の木の葉に、朝露が綺麗に輝いていた。茶畑の後、製茶工場に案内してもらった。外観から味のある建物。足を踏み入れると、想像以上の広さに驚いた。歴史を感じる機械がずらりと並ぶ。おぉ〜!と思わず声が出た。ここは絶対残したいねん〜と佐和さん
佐和 畑で刈り取った葉っぱを乗せた車をそのまま横付けして、製茶工場に入れれるようになってます。
煎茶を作る時は、葉っぱを刈った瞬間に発酵がじわっと始まって熱くなってくるんで、早く工場に持ってきて加工していきます。
大体5〜6時間で、生葉から荒茶の形にできるかな。
この工場では、荒茶の段階までやってて、百貨店で売ってるような、針のような形のお茶にまで加工する場合は、また別の工場に持って行って大きさを選別したりしています。
でも、私は自分で売る時は、そこまでしなくて、荒茶の状態で売ってて。
大きいのや小さいのとか、色んな部分が混ざってるほうが美味しいよ〜と言ってくれはる人も割と多いしね。
(中編につづく)